がん 余生を施設で過ごすことを選んだ方についての記録 ①
特定施設でケアマネをしています。
急遽入居が決まった方です。
胃がんステージⅢaと診断。がんに対しては積極的な治療を行わないと決め、自宅で生活されていました。
誤嚥性肺炎と過活動性膀胱炎、胸部痛があり、ご自宅から救急搬送。病院で治療をされていましたが、状態安定したのていつでも退院ができると言われたそうです。
高齢の夫と二人暮し。ずっと二人で寄り添って生きてきました。
がんが判明し、ご自宅で二人で頑張ってきたけれど、介護量が増えたことで夫の負担が増し、在宅生活に限界を感じて、施設を探されていたとのこと。
ご縁あって、私共の施設へ入居をお決めになり、退院されてご入居されました。
<経緯>70代女性
・2020年度の健康診断で胃がんが見つかる。
・再検査した結果、癌研へ行くことを勧められる。
・癌研で精密検査の結果、胃がんステージⅢaが判明。手術と放射線治療を開始する。
・その後の検査で骨盤と膀胱、肺に転移がわかる。家族で相談し、がんに対して積極的
な治療は行わないことに決めた。
・ご自宅で夫と二人で生活。徐々に痛みが出現し、かかりつけ医よりがんの疼痛コント
ロールで麻薬の使用を開始。
・余命1~3か月。余命についてご本人への告知は希望しない。
・誤嚥性肺炎、過活動性膀胱炎による頻尿、胸部痛でご自宅から救急搬送。
症状改善してご退院。施設でのご生活が開始される。
状況と病状より、入居と同時にお看取りのケアを行うことになります。
ご本人様と初めて面談し、お話を伺いました。
一年前の健康診断までは通常の生活をしていた。がんが発見され、あれよあれよと
状態が悪くなったとのこと。
「あっという間に動けなくなりました。」
「なぜ自分がこんな目に遭うのだろう。」
「どうして自分が癌になったのだろう。」
「まだ孫が生まれたばかりなのに・・・。」
癌を罹患してしまった切なさ、やるせなさ、不条理さ・・・など、苦しいお気持ちを
話してくださいました。頑張って看病してくれる旦那さまやお子様たちには、心配をかけてしまうのでなかなか口にできなかった本音だとおっしゃいました。
お辛くて、ご家族様には言いにくいことがあったら、私やスタッフの前では、どうぞ
お気持ちを話してください。泣いちゃったっていいんですよ、とお話ししました。
少し涙を浮かべて、うなずかれました。
私たち施設職員ができることは何か。
この方の施設での生活を支えるにあたり、私たちは何ができるのか。
カンファレンスで多職種で話し合いました。
・がん末期、余命が月単位であるという中、本当は住み慣れたご自宅で、家族と一緒に
暮らしたいとご希望していたと推測。
・在宅介護力の問題、病状悪化した際に高齢の夫の看護の負担、夫の健康を考えると、
施設での生活は苦渋の選択だった。
・ご本人様も夫のことを思いやり、施設入居に同意された。
・施設などの集団生活は初めて。ご自身は若く、施設の入居者は90~100歳代が多い。
親子ほどの年齢差がある環境での生活となる。
・限られた日々を過ごすことになる。
・がんと判明して約1年。精神面では病気の受容の途中で、葛藤する思いがある。
・身体に痛みやだるさが出ている。麻薬でコントロールしないと辛い、苦しい。
生活の真の望みは住み慣れたご自宅で、夫のそばで療養することだと思います。
施設では今までのご自宅のような生活はできません。
しかし、ご家族様の協力を得ながら、ご自宅と近い雰囲気で過ごすこともできます。
施設職員の腕の見せ所です。
大切にしたいこと。スタッフの目線から。
・主治医の見解を確認して、最初からお看取り対応を開始する。
・ご家族様との面会はフリーとし、夫や子供、孫との時間を大切に設ける。
→マスクやフェースシールド着用、消毒の徹底、15分以内など感染防止対策は講じて
の面会。
・ご本人様、ご家族様にお話をたくさん伺う。お気持ちに寄り添えるように。
・「今」したいことを実現していく。楽しみを持ち、笑顔で過ごせるように。
・医療と連携して、痛みのコントロールを行う。穏やかに苦しくなく過ごせるように。
いかに身体的、精神的苦痛を軽くすることができるか。医療との連携が重要です。
・病状の変化を早期に確認し、医療職へ繋いでいく。
・ご本人様の気持ちや思いを傾聴する。リラックスできる時間を持てるように。
・ご自身の生活ペースを大切にする。無理に施設の日課に合わせなくてよい。
もっともっとご本人様のお気持ちを聞いて、施設でできるだけ心残りなく、ご家族様と一緒に、穏やかに過ごせるようお手伝いしていこうと申し合わせしました。
長く施設で生活してきた方のお看取りとは異なり、新しい生活環境で、新しい人間関係を築いていかねばならないケースです。
まずはご本人様・ご家族様とスタッフが馴染みの関係を作り、要望を言いやすい関係を作りたいと思います。施設の環境に慣れ、安心して生活できるよう、声掛けを多くして接していきたいと思います。