がん 余生を施設で過ごすことを選んだ方についての記録 ②
特定施設でケアマネをしています。
急遽入居が決まった方です。
胃がんステージⅢaと診断。がんに対しては積極的な治療を行わないと決め、自宅で生活されていました。
誤嚥性肺炎と過活動性膀胱炎、胸部痛があり、ご自宅から救急搬送。病院で治療をされていましたが、状態安定したのていつでも退院ができると言われたそうです。
高齢の夫と二人暮し。ずっと二人で寄り添って生きてきました。
がんが判明し、ご自宅で二人で頑張ってきたけれど、介護量が増えたことで夫の負担が増し、在宅生活に限界を感じて、施設を探されていたとのこと。
ご縁あって、私共の施設へ入居をお決めになり、退院されてご入居されました。
がん終末期で、自宅ではなく施設で残りの時間を生活することを決めた方に対して、
どのように関わり、生活をサポートしていくか。日々のケアを記録していきます。
経緯はこちら↓
takachan417coco.hatenablog.com
入居して4日目。お話を伺いました。
「まだ生活には慣れていなくて、少し気を遣います。」
そうですよね・・・。新しい環境でまだ3日。初めての人、集団生活、生活リズムで、
少しどころか、大変気を遣われていると思います。
ご主人が毎日面会に来ていただき、一緒に過ごしてくださっています。
お二人にとって過ごしやすいお部屋作りをお手伝いしたいと思います。
新型コロナウィルス感染防止対策で、入院中は面会禁止だったそうです。今はどこの病院でも同じ対応です。高齢者施設でも面会禁止やかなり制限している施設は多いです。
その中で、私たちの施設に入居されたことで、ほぼ制限なくゆっくり家族との時間と
過ごせるようになったことは大きなメリットだと思います。
痛みのコントロール
がんによる疼痛は日々見られています( ノД`)。下記の対応にて痛みのコントロールをお手伝いしています。
①痛みスケールを使用して、ご本人様へ痛みの程度を確認します。スケール3以上であれば、バイタルサインを測定し、看護師へ報告。麻薬の舌下錠を内服します。
↓
②30分後、痛みの程度を確認します。痛みなければ、そのまま過ごします。
↓
③痛みがある場合は、再度①②の対応を行います。
↓
④舌下錠2回使用して30分後に痛みが消えない場合は、別の麻薬(オキノーム)を内服します。
↓
⑤ オキノームを使用しても痛みが消えない場合は、バイタルサインを測定し、看護師がドクターコールして医師の指示をうけて対応します。
痛みは精神的に身体的に苦しいものです。気持ちも沈んでしまいます。
いかに痛みをコントロールして、苦しくなく穏やかに過ごすことができるか。
ご本人の生活の質(QOL)を維持するための最重要ポイントです。
生活の希望~施設でどのように生活したいか~
ご本人様より伺ったこと。
「食事が楽しみでなくなってしまいました。どれも同じような味で・・・。」
「果物やサンドイッチが好きです。特にスイカが好きですね。」
「自宅では無糖ヨーグルトにジャムを乗せて食べるのが習慣だったの。」
「入院中は果物ゼリーやヨーグルトを食べていました。」
「食事は食堂で摂りますが、疲れてしまい長くはいられません。早くお部屋に帰りたい
と伝えることが、皆さんにご迷惑をかけるようで申し訳ないのです。」
「入浴はその日の希望で清拭(お体を拭く対応)にしたい。」
「洋服は自分で選んでコーディネートしたいです。」
「男性スタッフも(排泄や入浴、更衣介助を)するのですか?」
「3歳の孫に会いたい。」
一つ一つのお言葉から、どんなふうに暮らしたいかのヒントが散りばめられています。
たくさん会話することで、その思いを拾い上げていきたいと思いました。
ご本人様には「こうしてほしい。こんなふうに過ごしたい。」との思いがあるでしょう。でも施設職員への気遣いから、「こうして欲しい」と言い出しにくいこともあると思います。私たち職員との関係性を早期に築けるようにこちらから働きかけていくこと、会話からご希望をキャッチできるようにスタッフの感覚を研ぎ澄ますこと、ご家族様からお話を伺って情報を得ていくことをどんどん進めていきたい。
スタッフが感じたこと。
70代とお若い方です。できるだけ女性スタッフが介助を担当できるように配慮していきます。今までの生活についてお話を伺い、施設での生活にもその習慣を盛り込めるようにしていきたい。
・痛みやその日の体調によって介助方法を変えて対応していく。
・排泄、入浴、更衣などの介助はできるだけ女性スタッフが担当する。
・他の入居者へ気を遣うことなく、ご自身のペースでゆっくり過ごせるように配慮。
他のご入居者との交流は最小限の方が気が楽かもしれない。スタッフとの交流は多く
し、声掛けをたくさん行い、お気持ちを傾聴することが大切。
・ご家族様とゆっくり、気兼ねなく、居室で過ごせるよう配慮が必要。
・食事形態の評価を行う。お好きな食品を摂取できるよう検討していく。
お食事について
今回の入院前までは、ご自宅で特に食事に制限はなく、通常の食事でした。
食べ物を詰まらせ誤嚥性肺炎で入院されたため、入院中は医師の指示にて嚥下補助食の「ムース食」を摂取。嚥下検査を実施し、現在の嚥下能力では通常の食事形態は難しいと情報提供があり、施設でも同様の食事形態で対応しています。
「ムース食」と同等の施設で提供できる食事形態は「ソフト食」です。
ムースのような見た目で、ぱっと見は献立が何かわかりません。味わうとしっかり素材や献立の味は感じます。しかし食事は五感で味わうもの。視覚からの情報も重要です。
どの献立も同じような形に見える。高齢者向けの味付け・メニューなので塩分も控えめ。70代の方には物足りなさがありそうです(;´Д`)
施設では誤嚥を防ぐために安全な食事形態が必要、と考えます。
もしご自宅へ退院したならば、多少形態を工夫するかもしれませんが、好きな食事を
摂取するでしょう。
でも、施設ではそこまでリスクを取って自由に提供できないのが現状です。
この方にとって何を優先すべきか。何を大切にしたらいいか。
「安全な食事」か「生活の楽しみである食事」か。
残された時間を、「今」を悔いなく、楽しみをもって生きるために必要な判断は何か。
言語聴覚士、看護師、医師、介護スタッフ、栄養士、ケアマネ・・・多職種で検討していきます。
まず、すぐにできることを開始。果実ゼリーやプリン、ゼリー飲料、ヨーグルト、果実の大きくないジャムを保証人様へ差し入れをお願いしました。
早速お持ちいただく。ありがとうございます!!
提供すると、笑顔で召し上がられました。
食事は本当に大切だと思います。生活の楽しみの一つ。
美味しく食べられること、好きなものを食べられること。生きる喜びです。
入居者様がよく口にされるのは、「食事だけが楽しみ。」という言葉。
住み慣れた自宅を離れての施設での集団生活。いろいろ手放してきたことでしょう。
楽しみの一つである【食事】をいかに楽しみであり続けられるように支援していく。
大切なことだと思います。
施設で穏やかに、楽しみを持って、「今」を悔いなく生きていただくために。
ご本人様と一緒に考えていきたいと思います。