がん 余生を施設で過ごすことを選んだ方についての記録 ③生活の楽しみについて
特定施設でケアマネをしています。
急遽入居が決まった方です。
胃がんステージⅢaと診断。がんに対しては積極的な治療を行わないと決め、自宅で生活されていました。
誤嚥性肺炎と過活動性膀胱炎、胸部痛があり、ご自宅から救急搬送。病院で治療をされていましたが、状態安定したのていつでも退院ができると言われたそうです。
高齢の夫と二人暮し。ずっと二人で寄り添って生きてきました。
がんが判明し、ご自宅で二人で頑張ってきたけれど、介護量が増えたことで夫の負担が増し、在宅生活に限界を感じて、施設を探されていたとのこと。
ご縁あって、私共の施設へ入居をお決めになり、退院されてご入居されました。
がん終末期で、自宅ではなく施設で残りの時間を生活することを決めた方に対して、
どのように関わり、生活をサポートしていくか。日々のケアを記録していきます。
経緯はこちら↓
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入居して1週間。
少しずつ施設の生活や職員とも慣れてきたご様子。
体調の良いときは職員と笑顔で話す姿も見られるようになりました。
毎日ご主人様が来訪され、ゆっくりお部屋で過ごされます。
「会いたい」と希望されていたお孫さんも、週末に面会に来てくださいました。
お手紙や絵をプレゼントしてくださり、お部屋をにぎやかに彩っています。
体調面のご様子
・毎日1~2回は痛みと呼吸苦が出現します。そのたびに痛みスケールを使用し、
痛みの程度を確認し、看護師へ報告。医師の指示の麻薬を使用します。
・麻薬を使用すると痛みが楽になります。
・入居3日目に舌下錠の麻薬を始めて2クール使用しました。
・痛みが落ち着いているときは、笑顔で会話したり、車椅子に移乗してリビングで
過ごす、屋上テラスで日光浴など穏やかに過ごしています。
入居して1週間。面談してお話を伺いました。
「ここでの生活も慣れてきました。ただ、食事が美味しくなくて、楽しみでなくなったの。全部同じような味で、何を食べているかわからなくて・・。」
誤嚥性肺炎にて入院していた後に、施設へ入居されたとの経緯と、病院からの情報提供の中で、「誤嚥性肺炎再発リスク高い」との申し送りがありました。安全面を優先し、
入居当初は病院での食事形態「ソフト食」を継続して提供。ご様子を確認していました。ソフト食とは、噛まなくても舌でつぶして飲み込めるという形態です。
食事ではむせ込むことはありませんでしたが、水分でむせる様子が見られ、誤嚥のリスクは高いと判断していました。
しかし、ご本人様は「美味しくない。何を食べているかわからない。」と食事の楽しみを奪われている状況でした。
この方にとって、何を優先したらいいのだろうか。安全?それとも食事の楽しみ?
食事について多職種で検討
・自宅で過ごしていたら、きっと好きな食事を食べるよね。
・施設だから安全を優先する考えになるけれど、この方の状況を考えたら食事の楽しみ
を優先したほうがいいと思う。
・今対応しないと後悔することになるよね。
・誤嚥性肺炎を再発したら、最期の穏やかな時を過ごせなくなってしまう。再入院や
肺炎の苦しいなかで過ごすのは、ご本人にとってもご家族にとっても避けたいこと。
どうしたら安全に食事をしてもらえるか。
色々と意見交換し、目標を決めました。
↓
①主治医と相談して、食事の形態変更を検討する。ソフト食→刻み食へ。
②美味しいと思える食事、間食を摂取する。
③食事が楽しみになるように。
ご本人様とご主人へ食事形態変更について提案。言語聴覚士(ST)にて嚥下評価をしたいと提案しました。その際、お好きな食品、食べて欲しい食品も用意して、今の嚥下能力で安全に摂取できる食品を見つけていきましょう、と。
ご本人様はとても喜んでいらっしゃいました!!
ご主人も「いろいろ持ってきます」と。
ご本人の気持ちを伺い、すぐに相談して行動に移して良かった。
嚥下評価の日程調整を行い、週明けにスケジュールを組みました。
看護師は主治医へ相談。言語聴覚士の評価の下、食事形態を変更してもよいとの見解もいただきました(/・ω・)/
来週の嚥下評価結果が楽しみです。
どうか、好きな食事を食べることができますように。
施設での食生活の通常の考え方と今回のケースでの対応
施設での食生活は「安全」を優先することが多く、自宅と全く同じ食生活を送ることは
難しいです。
90歳を超えた高齢の入居者様のご家族様が、「食事を詰まらせて死んでもかまわないから、本人が好きなものを食べさせてくれ。」と希望される場合があります。
もう年だし、好きなものを食べさせて欲しい。でないと可哀そう・・・。
そのご家族のお気持ち、すごくよくわかります。
しかし、施設側としてはその希望を叶えることはできません。窒息してお亡くなりになるということが起きた場合は、行政へ報告しなければならない事故となり、状況によっては警察の捜査がはいるような事件になってしまうのです。
ご家族様が「死んでもいいから・・・」という希望があったとしても、私たち施設は、ご本人の嚥下能力に合った適切な食事形態を提供する義務があるのです。
病院の対応と同じです。安全を優先します。
今回の場合は、がん末期で余命いくばくかという状況の中、生活の質をいかに高め、
残された時間を穏やかに過ごし、したいと思うことを行い、「今」を悔いなく生きる
ために、支援することが大事であると多職種の専門職で検討して合意しました。
ご本人様もご家族様も希望されています。
安全も考慮しながら、その思いを叶えるために、どのように支援していくか。
リスクも併せて説明しながら、思いを叶えていく支援を選択したのです。
こういう柔軟性を持ち合わせているのも、施設の良いところだと思います。
さて、来週の嚥下評価結果で、どのように食生活を変えていけるのか。
楽しみです。