ワーママ・ケアマネたきぼんの介護・子育て

ケアマネたきぼんのこころが軽くなる介護・子育て・生活のヒント

忘れること。人生には大切なのかもしれない。

勤務する高齢者施設に入居されている女性。

自宅でご主人と二人暮らしでしたが、転倒を繰り返したことを機に、自宅での老々介護の限界にて老人ホームへの入居を決めました。

アルツハイマー認知症の進行があり、現在は末期に近づいている状況です。

 

ご主人の面会を楽しみにしていて、お顔を見ると笑顔になります(^^♪

「来てくれたのね。」「嬉しい。」と、新型コロナ禍で制限のある面会ではありますが、二人の時間をゆっくり過ごしています。

 

入居した当初、ご主人が面会に来ると表情が沈む様子がありました。あまり楽しそうではありません。

ご主人が2カ月間、臨時のショートスティで入居した際のことです。

フロアは異なりましたが、毎日ご主人が居室やリビングでずっと一緒に過ごしました。

スタッフもきっとそれが良い、と見守っていました。

 

しかし・・・・

女性はみるみる元気がなくなり、食事の摂取が少なくなりました。表情も沈んでいます。主人と一緒にいても、言葉も発せず、笑顔もありません。

でも、スタッフとの関りでは笑顔で会話してくださります。

 

どうしたのだろう・・・・?

 

ある日、ご家族様よりお聞きしました。

「実は、母は父が大っ嫌いなんです。」「でも父は母が大好きなんです。」と。

 

何ですって???

もっと早く知っていたら・・・。と後悔しました。

 

長い夫婦生活。色々な歴史があったことでしょう。

良かれと思っての支援も、実は女性にとっては苦しかったのかもしれません。

もう少し、女性の人生の物語について、ご主人だけでなくお子さんにも聞いておくことが大切でした。

 

ご主人が自宅へ戻られた後は、食事量ももとに戻り、表情や様子もいつもの通りになりました。

 

それから3年。

女性は認知症が進行し、徐々にできることが少なくなってきています。

声をかけると、笑顔で簡単な会話はできます。にこにこ穏やかに生活しています。

 

認知症が進行して、女性は夫への思いが変わりました。

「夫を嫌いだったこと」を忘れてしまったのです。

きっと、辛かった時期を忘れ、いい思い出だけが記憶に残っているのでしょう。

 

ご主人の面会時に、本当にいい笑顔で迎えます。一緒に過ごしていて、本当に嬉しそうです。結婚63年を迎えた、熟年夫婦の信頼の深い、穏やかな愛で包まれている、そういう雰囲気を醸し出しています。女性の笑顔は本物です。素敵なご夫婦です。

 

忘れること。人生には大切なのかもしれない。

 

ふと、そう思いました。

負の感情や嫌な思い出は、いつまでも心に残っていたら・・・。

思い出して、また負の感情を呼び覚ますのは、悲しいですよね。

 

「夫を嫌いだったこと」を忘れてしまった女性。人生の一時期に夫を嫌いと思う瞬間があったのは事実だと思います。でもそのマイナスの感情を忘れることで現れたもの。

 

それは、「愛」。

 

根底には「愛」があるのだと思います。

だって結婚して、人生を切り開いてきた同志ですもの。

人生の積み上げてきた二人のエピソードの根底にあるのは、「愛」。

積みあがった「嫌いになる出来事。嫌いな気持ち。」を認知症によって、うま~く忘れることで、「愛」が現れてきた(⋈◍>◡<◍)。✧♡

 

そんな気がしました。

穏やかに二人で過ごす時間。人生の終盤に差し掛かったお二人が、色々なエピソードを抱えながらも、最期まで歩んで行く。

 

認知症で忘れることも、まんざら悪いことでもないな、と思いました(^_-)-☆。

 

認知症の状況は人それぞれです。この女性のケースが皆にあてはまるわけではありません。でも、女性のこういう晩年も悪くはないのかな、と勝手に思ってしまいました。